神奈川県の女子生徒の間では、リストカット経験者が14.3%

 毎日新聞によると、神奈川県の女子生徒の14.3%が自傷行為を経験していたことがわかりました。これは、国立精神・神経センター精神保健研究所の松本俊彦医師らのグループの調査で、神奈川県内の私立女子高(1校)の2年生126人と、公立中学校(同)の2、3年生477人を対象に04年に行ったものです。



 それによると、14.3%の女子高生が自傷行為を経験しています。これは、東海女子大の調査での13人に1人、約7%よりも多い数字となっています。中学生でも女子で9.3%、男子でも8%となっています。女子高生への調査が「私立」だけなので、偏った数字と見てよいと思います。私の取材でも、リストカットをしている女子高生は「私立」が多いのです。

 なぜそうなるのかは、私なりの仮説があります。それは、「私立」の方が、「公立」よりも同じような階層、文化的資本の中で生きていることが影響しているのではないでしょうか。「生きづらさ」を抱えたときに、SOSを発する手段として、「見える身体」の操作があります。それは人によってはダイエットであるし、過度なスポーツだったりします。それらのひとつに「身体」を傷つける行為も含まれます。

 また、同じような環境にいる場合、「個性化」をしなければ、注目を浴びません。注目を浴びる手段のひとつとして、「身体」を傷つける行為はあるのでしょう。さらに都市型で、経済的な中間層が多く、郊外型の「私立」の場合は、いわゆる社会的な逸脱行動に出ることは勇気のいることで、なかなかできません。そうするときに、SOS=アクティングアウトを「外」ではなく、「内」に向けることがあります。さらに、特に、女性は「見た目」=「身体」によって評価されることが多いことでしょう。



 記事では、中学生のみに、男子に聞いています。8.0%は正直、多いなというのが感想です。しかし、男子も「見た目」で評価されることが増えてきました。これは80年代の男性ファッション誌の登場を契機に、男性用化粧品の発売で、流れが作られます。この点は拙著「ネット心中」でもふれています。



 しかし、増えれば増えるほど、「切る」だけでは、SOSとしては弱く、さらに過激になる人たちが増えることでしょう。あるいは、切り方を変えたり、見せ方を変えて行くのです。記事では、「手首だけでなく手の甲に十文字に切るグループも現れました」との養護教諭のコメントもありますが、それが端的に示しています。「切る・切らない」という行為にだけ注目しないようにしましょう。問題は、そうした行動に出る心的な問題なのです。





>



 自傷行為:「数増え相談時間ない」悩む学校 初の実態調査



 刃物で自分を傷つける「リストカット」などの自傷行為について、学校内で深刻な状況になっていることが6日、国立精神・神経センター精神保健研究所の松本俊彦医師らのグループの調査で分かった。リストカットは中高生の間で目立ち始めたといわれていたが、国内での実態調査は初めて。学校現場も対応に苦悩している。【小国綾子】


 調査は神奈川県内の私立女子高(1校)の2年生126人と、公立中学校(同)の2、3年生477人を対象に04年に行った。「これまでにナイフなどとがったもので身体を傷つけたことがあるか」などの質問に無記名で回答してもらった。


 その結果、女子高生のうち14.3%が1回以上自傷しており、10回以上が6.3%に上った。中学生でも女子生徒238人のうち9.3%、男子生徒239人のうち8.0%が刃物で自分を切ったことがあった。また、「頭やこぶしを壁などにぶつけたことがあるか」との質問には、中学、高校合わせて男子の27.7%、女子の12.2%が「ある」と答えた。


 自傷の理由については、言葉にできない孤独や不安、怒りなどの感情から逃れるためだったり、助けを求める表現などさまざまだ。


 学校現場も対応に追われている。首都圏のある公立中学校では昨年、3年生の間にリストカットが突然広まった。最初は数人だったが、その後続発し、200人足らずの3学年の中で学校が把握しているだけでも20人を超えた。何人もの生徒が次々に「切っちゃった」と保健室を訪れる事態になった。


 保健室で手当てした養護教諭は「片手で生徒の手首の手当てをしながら、もう一方の手で別の子の手を握り締めたこともありました。手首だけでなく手の甲に十文字に切るグループも現れました。誰もがみんな自分の苦しさに気付いてもらいたがっているようでした」と振り返る。


 現在、中学や高校の養護教諭たちによるリストカットの勉強会も各地で開かれるようになった。だが、「自傷者の数が増えて、一人ひとり話をじっくり聞く場所と時間を確保できない」「毎日、生徒に手首の傷を見せられると教師の側も苦しく、精神的に負担だ」「学校は家庭にどこまで踏み込めるのか」など悩みはつきない。


 「夜回り先生」で知られる元定時制高校教師、水谷修さん(49)にも自傷の相談が多数寄せられている。中には、東北地方の中学校の女子バスケットボール部では、顧問の教師が1人をしかった後、部員全員が「私のせいでしかられた」と自分を責めて自傷したこともあった。


 松本医師は「自傷による受診者の増加は医師仲間からも聞く。人間関係の苦手な子たちは身近に自傷している子を見ると、仲間意識や所属意識を感じるために切り始める面もある」と指摘。そのうえで、「『苦しいんだね』『切りたくなったら言ってね』と共感の言葉を伝え、相手にも言葉で苦しみを表現する機会を用意してやり、気持ちを受け止めてやってほしい」とアドバイスしている。




毎日新聞 2006年2月6日 15時00分




http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20060206k0000e040090000c.html



>