いじめ・緊急提言

 教育再生会議が、いじめに関する緊急提言をしました。

 いじめを「いじめる側」と「いじめられる側」、「見て見ぬふりをする側」とにわけたのはある程度、評価できます。しかし、加害者対策が懲罰的なものだけで、ケアをどうするかには触れていない。また、いじめられた側が逃げることをどう認めて行くかは触れていない。さらに、「見て見ぬふりをする側」、もっといえば、「はやし立てる側」をどのようにしていくかはまだまだ検討課題として残るんじゃないだろうか。

 いずれにせよ、これは「緊急提言」だ(そのわりには、実効性をどれだけ伴うものなのかは不明)。より、恒常的ないじめ対策を確立させる必要があるだろう。そして、随時、自己検証・検証プロセスの公開・再検討をしていく柔軟さや、現場での自由な議論などが必要になってくるだろう。



いじめ緊急提言:舞台裏 急浮上した社会奉仕

 いじめの社会問題化を受け、政府の教育再生会議野依良治座長)が29日発表した緊急提言は、いじめをした児童・生徒に対し「毅然(きぜん)とした対応を学校側く求めた。「社会奉仕、別教室での教育」も一例として掲げたが、一時は検討された「出席停止」は最終段階で消えた。提言を打ち上げ花火に終わらせず、子どもの悩みを受け止める態勢作りにつなげられるか。先行きは不透明で、いじめによる自殺で子どもを失った遺族らは厳しい視線を送っている。

 ◇教育再生会議の意見が割れた「出席停止」

 「出席停止といっても、その子の面倒を誰が見るのか。緊急避難だけでは解決にならない」。陰山英男委員(立命館小副校長)は再生会議終了後、記者団に強い調子で出席停止措置を批判した。

 原案段階で検討された出席停止は、最終案で社会奉仕と個別指導、別教室での教育という3点に切り替わった。出席停止を主張していた「ヤンキー先生」こと義家弘介委員は「別教室もある意味では出席停止だ」と述べ、委員間の認識の違いが浮かび上がった。

 再生会議のメンバーは10月25日、いじめ自殺の起きた福岡県筑前町を現地調査し、いじめ撲滅を訴える再生会議の緊急声明を発表した。約1カ月で今度は提言として具体的に踏み込んだ理由を、池田守男座長代理(資生堂相談役)は終了後の会見で「(いじめが)エスカレートしている現状を踏まえた」と説明した。

 教育基本法改正案をめぐる国会審議は、いじめ自殺や「やらせ質問」に野党の追及が集中。首相官邸サイドも「国民、教育界へのアピール」(塩崎恭久官房長官)を求めた。必ずしもいじめ問題に焦点を当てていなかった再生会議だが、今月21日に完全非公開で開いた運営委員会が、緊急提言取りまとめのスタートとなった。

 文部科学省などの出向者が集まる内閣官房の再生会議担当室は、いじめ問題への考えられる対処方法をリストアップして提示した。義家氏は再生会議の発足当初から、出席停止の厳格適用などいじめる子どもの教室からの隔離を主張。これをもとに27日の会合で原案が示され、担当室は各委員に個別に意見を提出するよう依頼した。

 ただ、出席停止は「管理強化は逆効果」などの批判が強く後退。29日の全体会議直前に示された最終案に、唐突に社会奉仕が浮上した。運営委員の一人は毎日新聞の取材に「社会奉仕は議論したこともない」と不満を漏らした。

 中曽根内閣の臨時教育審議会は86年に「社会奉仕の心の涵養(かんよう)」を提言。00年には森内閣の教育改革国民会議が「奉仕活動を全員が行う」ことの検討を掲げた。いずれも「憲法が禁じる苦役につながる」との批判で日の目を見なかったが、安倍晋三首相は自著で「大学入学の条件にボランティア活動を義務付ける」と記すなど、再検討する構えだ。委員の中でも奉仕活動の重要性を説くのは、国民会議にも参加した浅利慶太氏(劇団四季代表)ら。山谷えり子首相補佐官は会議後の講演で「国民会議で提言が出ながら実現できなかった。その穴埋めをするのが教育再生会議だ」と言い切った。

 緊急提言を実施するならば、社会奉仕にせよ別教室にせよ、担任教師の他に指導者が必要で、予算措置も避けられない。教育界からは「具体策のないPRに終わるのではないか」との声が出始めている。【竹島一登、高山純二】

 ◇いじめで自殺遺族の反応「杓子定規じゃだめ」

 いじめによる自殺で我が子を失った親たちは、教育再生会議の緊急提言をどう見たのか。

 長男(当時13歳)を亡くした長野県教委こども支援課長の前島章良さんは「おおむね評価できる」とした。しかし、「いじめが100例あれば100通りの解決方法が必要になる。杓子(しゃくし)定規にいじめっ子を隔離しても問題は解決しない」と指摘する。

 「『毅然とした対応』は当然のことだが、そうした態度を取れない現状こそが問題。『いじめられる側にも問題がある』という意識や事実解明を阻む学校の隠ぺい体質など、そうした風潮を変えていくことが重要だ」と話す。

 長女(当時15歳)を亡くし、現在はいじめのない社会づくりを目指すNPO「ジェントルハートプロジェクト」理事を務める横浜市の小森美登里さん(49)は「罰のような形ではいじめた子どもは反省せず、また新たないじめを起こす。いじめた子どもに寄り添う視点がなければ、新たな暴発を生み、何の解決にもならない」と批判する。

 教員の懲戒処分についても「先生も処分を受けるとなると罰が怖いので隠ぺいに拍車が掛かる。いじめの問題では目標数値を設定したり、評価をすべきではない」と苦言を呈した。

 一方、日本教職員組合・高橋睦子副委員長は、「いじめ対策を取ろうとする方向性は良いが、中身は見るべきものがない。対症療法でしかなく、いじめ問題の解決につながるか疑問。『毅然とした対応』も排除の論理であり、教育の在り方、目標からすると問題だと思う。そもそも、前文に「美しい国づくりのために緊急に提言する」と書かれているが、そうじゃないはずだ。いじめ対策は、子どもの命を守るために行うものではないか」と話す。【川崎桂吾】

毎日新聞 2006年11月30日 0時02分 (最終更新時間 11月30日 1時09分)

http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/feature/news/20061130k0000m010149000c.html