「ネット君臨」の読み方
毎日新聞の新春連載「ネット君臨」が始まっています。
なかなか面白い部分もありますが、ちょっと、注意して読まないと、誤解する部分もあるな、って思いました。
たとえば、
ネット君臨:第1部・失われていくもの/2(その1) レア物求め、嫌がる女児撮影
◇認められたくて「狩り」
1枚のDVDがある。空き地で遊ぶ2人の少女。1人(当時8歳)が暗がりに誘い込まれる。服を脱がされそうになり、顔をゆがめて「嫌だ嫌だ」と泣き叫んでいる。とても正視できない。
04年10月。インターネット上のハンドルネーム(HN)「なるえ」は、これを撮るため休日を利用して仲間と千葉県に車を走らせた。JR東海の元運転士(33)。停車位置が10センチずれるのも許せない。無遅刻無欠勤。職場の同僚は「まじめできちょうめん」と口をそろえる。
愛知県豊橋市の自宅から遠く、純朴な子どもがいそうな田舎に目を付ける。黄色い帽子をかぶった下校途中の約20人に「かわいいね」と声をかけた。小学4年以上は警戒されるから狙っていない。
埼玉、宮城県警は昨年から大規模な児童ポルノ事件の摘発を進めている。逮捕者は、実行グループのなるえを含め中部から東北の計14人。元自衛官、郵政公社職員、塾講師……。幼いわが子へのわいせつ行為に及んでいた法務局人権擁護部の元職員もいる。00年ごろ、ネットのチャットやコミックマーケットで知り合った小児性愛者グループだ。互いの本名は知らない。
◇押収画像500万点
押収された画像はネットを使って収集したものを含め、空前の500万点に上る。1000人前後の日本人女児の映像など、数万人分が収められていた。DVDには男の顔も映っている。「自分が撮ったもの」という証拠だ。彼らは女児の撮影を「狩り」と呼んだ。
警察が事件の中心人物と見る男がいる。小児性愛者の世界でカリスマと呼ばれるHN「D」。コミック作家、38歳。1級のコンピュータープログラマーでもある。逮捕された1人はこう供述した。「同じ趣味の人間がたくさんいることをネットで知った。珍しいものを持っていれば、あの人に認めてもらえると思った」
ネット社会に渦巻く欲望から子どもたちを守るすべはあるのか。(2面に続く。ネット用語=太字)
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■解説
◇拡散する児童ポルノ「単純所持」も禁止を
児童買春・児童ポルノ禁止法は99年に成立した。国際会議などで「世界で流通する多くが日本製だ」と批判されたことも影響した。
同法は「児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害する」とし、刑法の「わいせつ」より広く定義している。04年の改正では、販売目的でなくても違法画像を提供した者を処罰の対象に加えた。しかし、その後もはんらんし、抑止効果は上がっていない。
その大きな理由は「誰が最初にネット上に流出させたか追跡するのは非常に難しい」(警察庁幹部)ことだ。発信者は追跡を逃れるため、情報を中継する複数の国内外のサーバーコンピューターを経由させる。一方、プロバイダー(接続業者)やサーバーの管理者は通信記録を保存していないケースが多い。盲点を突いて出回る画像を愛好者が収集し、拡散が続く。
現行法は収集しただけでは罪に問われない。04年の与党案には「単純所持」を禁止する条項が盛り込まれた。だが、与野党間の調整で削除された。野党の一部が「提供と比べて子どもへの影響が小さいうえ、たまたまダウンロードした場合なども対象になり、捜査権の乱用を招いてプライバシーを侵害する恐れがある」と主張したためだ。
しかし、子どもへの影響は本当に「小さい」のか。収集する者がいるからネットに流れ続ける。それに刺激を受けて性犯罪に走る場合もある。意図しないで所持した場合を除外することを明確にすれば、捜査権の乱用に歯止めをかけることもできるのではないか。
今年は法改正から3年たち、見直し時期。46カ国は単純所持も禁止しており、再び諸外国から批判を浴びる恐れもある。
児童ポルノは虐待にほかならない。被害をくい止めるため一定期間の通信記録の保存や単純所持禁止について真剣な議論が求められる。【ネット社会取材班】
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/kunrin/news/20070103ddm001040005000c.html
この記事では、児童ポルノについて取り上げています。「児童ポルノ」を明確に定義していませんが、文脈上では、「実在する児童のポルノ」を意味し、「架空の児童のポルノ」ではないのでしょう。ただ、そう誤読する可能性があるのは、女児の撮影=「狩り」をしていたのが、コミック作家であること。注意して読めば、たまたま小児性愛者で、たまたまコミック作家であることはわかるのですが、同一視させる危険もあるかな、と思います。
また、押収画像500万点とありますが、それは合法のもの非合法のもの、両方あるとは思います。それを一緒にして、500万点と書くと、すべてが非合法のものであるとの印象を受ける可能性があります。
解説部分では、たしかに、児童ポルノは、虐待なのですが、それはあくまでも、「実在する児童」への権利侵害としてあるものです。ここでは、児童ポルノの定義については触れていません。現在では、絵は除かれています。しかし、そうした説明がないために、読者に誤解を与えるのではないか。
また、解説部分で、世界で流通する多くが日本製だ、との批判を受けた、とある部分ですが、これは、たしかに指摘をされています。しかし、何をもって「日本製」とするのかは曖昧です。発信されたプロバイダが日本なのか、撮影場所が日本なのか、撮影者が日本人なのか、被写体が日本人なのか、といったことはこれまでも曖昧なままでした。また、何をもって「児童ポルノ」という基準になるのか。誰の見た目で判断できたのか、という判断基準のあいまいさはこれまでも指摘されていました。
単純所持の禁止が見送られている点に関しても、これは単に与野党間の政治的な力関係のみならず、現在のIT技術の制約からもとても難しい問題が含まれています。勝手にメール送られて来た、共有ファイル、キャッシュが残る、などの対応が非常に難しい点があります。現行法では、たしかに単純所持は禁止していませんが、単純複製、単純譲渡は禁止しています。そのため、野放しにしているわけではないのです。
(児童ポルノ提供等)
第七条 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
6 第四項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。
性犯罪への影響については、これはメディア論では結論が出ていない部分であり、性犯罪への抑制効果・代理効果についても言われている部分です。