君を忘れない

 昨夜、マイミクさんが出演する芝居「シオン」を観てくる。



 記憶障害の美空(みう)。短期記憶しかできず、今日のことは明日まで覚えているかどうかあやふやな記憶。



 その美空が記憶障害を治す新薬実験に自らも協力的な姿勢でのぞむ。記憶が失われる苦しみから逃れるために。そして、いったんは治りかけるが、副作用で逆に記憶を失っていく。



 美空をとりまく人間関係。それは美空の登場により様々な変化を見せて行く。それは過去と現在、そして将来をつなぐ「記憶」というものにとらわれながら。

 自分が自分であるために、過去の自分と現在の自分が同じ人間であると確認すべき概念がアイデンティティ(自我同一性)であるけれど、それをつなぐのが物語。ただ、その物語は記憶に支えられる。その記憶が失われてしまっては、アイデンティティが損なわれてしまうのだろう。



 そうした美空をなんとかしようと、空(かなた)は一旦は捨ててしまった音楽で、つなぎ止めようとする。記憶がなくなっても、心でつながっていくために。



 人が人を救うなんて、大それたことをできるのだろうか。いや、そんなことはできないのだろう。しかし、誰かのために、何かをしてみようとする試みは、たんに相手への好き・嫌いを超えて、何かが根底に流れている。ただの同情でもなく、ただの共感でもない。それは共に苦しむことを選択したことでもある。



 状況や設定は違っているけれど、私は、2年半前のことを思い出した。マリアの自殺を止めようと思って、いろいろ試みていたころのことを。



 「君を忘れない」



 それは、劇中に出てくるシオンの花言葉

 拙著「明日、自殺しませんか」(幻冬舎文庫)で私がマリアに対して残した言葉と同じ。



 そのマリアは、青い薔薇が好きだった。

 その花言葉は「不可能」。

 青い薔薇ができることはないとされていたからだ。

 ただ、数年前、遺伝子組み換えによって誕生したが・・・。



 「君を忘れない」



 それはマリアだけでなく、私が取材やオフ会を通じて知り合ったが、なくなった人たちに対しても、いまでも思っている言葉でもある。



 また、そうしたなくなった人たちに対してだけでなく、私が恋をしたすべての人たちにも当てはめることができる言葉でもある。



 ま、芝居を観ていて、いろいろ考えてしまったわけです。