ドキュメンタリーの「その後」はリアルタイムに

 「ドキュメンタリーは嘘をつく?」とは言わないまでも、撮影終了・編集時点の「事実」と、発表時点の「事実」とは同じとは限りません。多くの視聴者は、そこまで意識しないかもしれない。でも、ネット社会ってのは、その裏側を発見してしまうものなのだろう。



 今夜のNNNドキュメントの「オーバードーズ〜若者たちに広がるクスリ依存〜」はそのひとつの現れでしょう。



現在、若者を中心に増えつつあるオーバードーズの人たち。 それは、麻薬やドラッグではなく、ふとした心の悩みから病院やクリニックを訪ね、医師に処方された薬によって薬物依存症になってしまった人たち・・・。



 番組は33歳の女性がオーバードーズによって、33キロまで体重が落ち、深刻な禁断症状に陥り、過酷な闘病をする姿まで密着できました。



 知られざるオーバード−ズの悲劇と実態をご覧いただきご一考いただければ幸甚です。




 このドキュメンタリーにとって、どの時点の「事実」が発表されたのかを考えてみて、しかも、依存症のある種のパターンを考えると、単に「いまごろ、どうなっているんだろう」という想像はしてしまうもの。しかし、同時に、想像だけに留まらないのがネットな世界。



 以前も、NNNドキュメントで、自傷行為について取り上げたときに、その当事者のWeb日記が2chで話題になり、ある問題に発展したことがあった。今回は、どんな反応になるのかと思っていたら、やはり、同じような日記探しになっている。



 それ自体が悪いともよいとも言えない。テレビでなんらかのキーワードを発見すれば、ネットユーザーからみれば、どんな人なんだろうとか、どんな仕事をしているのだろうか、と探ってしまうものです。



 私もそうした一人だったのかもしれませんが、「今の時点」が気になって、日記を晒したURLをふんでしまいました。依存症のことにちょっとでも詳しければ、一度落ちて、また這い上がって、そしておちていく。さらに這い上がる・・・の繰り返しがあっても不思議ではありません。しかし、そうしたプロセスを無視すれば、「なんだ、回復ってのは嘘ですか?」「やらせですか?」となってしまう。



 私も、オーバードーズの番組こそ係わったことはないですが、生きづらさの問題や自殺の問題に関する番組づくりをするときには、いろいろ悩みます。とくに終わらせ方は難しい。今後、また番組にかかわることもあるかもしれないので、いろいろと勉強になりました。



 そういえば、昼間のフジテレビのドキュメンタリーはいつの時点の話だったか、気になってしまいます。その番組は、フジテレビの「ザ・ノンフィクション」では、「ふるさとは消えない 信州・王滝村の闘い 財政破綻寸前の村ルポ格差の未来」。



 王滝村は、私が長野日報木曽支局に勤務していたとき、ときどき取材に行っていました(なぜときどき、なのかといば、当時、村の担当は別の人でしたので。現在は、写真家として独立した先輩でもある、小林キユウ氏が担当していた時期もありました)。



 私が、王滝村で取材していた話題といえば、祭りやスキー場のこと。営林署の廃止のときも訪れたかな。番組ではその様子も触れていました。しかし、そのスキー場がいまや財政破綻の根本原因になっているようです。



 私が取材していた当時、王滝村は他の町村よりも財政的な余裕がありました。木曽ではめずらしく、学校図書館司書がいましたし。学校図書館の取材をしたのは、木曽に行ってからすぐでした。小規模校ならがも、図書館運営に工夫していたのを覚えています。



 また、戦後50年企画として取材した「異国の谷で 木曽谷の中国人・朝鮮人の強制連行」でも、ダム建設に従事した中国人や朝鮮人の足取りを追いました。長野県は、中国人の強制連行は、北海道に次いで2番目。その中でも、木曽谷は長野県一。木曽谷の中のほとんどが王滝村での労働でした。そのほとんどがダム建設のためです。特に、木曽谷の中国人の生活は、県内の他の地域よりも厳しく、亡くなった人も多い。そうした取材をするため、当時はけっこう、王滝村に行っていた記憶があります。



 そんな想い出のある王滝村はいまは破綻寸前。ちなみに、私がかつて勤務していた長野日報は数年前、木曽支局を廃止。そのあとには、市民タイムスが木曽支局を開設しました。しかし、タイムスの木曽版の売れ行きは、当時の長野日報の木曽版の売れ行きの半分も届かない状況らしい。



 さて、番組では、王滝村の自然と、中学校のブラスバンド部の音のミックスが調和していたように感じました。それにしても、北海道夕張よりも厳しい財政状況になるとは、かつての私には想像がつきませんでした。スキー場にたよりすぎ、とは感じていたことはありますが、ここまでになるとは。



 あと、ナレーションの宮崎あおいの「ふるさとは消えない」の言い方がせつないのなかに可愛さを感じました。