硫化水素の書き込みを削除すべきか

 GIGAZINEが、「硫化水素で自殺するための情報をネット上から削除するべきか否か?」という記事で、プロバイダ等の対応をまとめています。



 また、mixiの「ネットいじめ闇サイト問題」というコミュで、「自殺サイトは犯罪ではないのか」というトピックで、自殺系サイトについて議論中なので、とりあえず、私の意見をまとめておこうと思います。



 なお、硫化水素自殺をめぐって、意見を募集しています。



 アンケートはここで。



うまく表示されない場合の送り先はここへ。



 以下のは論点。は私の意見。



 ○自殺サイトが存在する限り、話を聞いてくれ、共感してくれる人のいる自殺サイトに癒され、影響を受けてしまう人が後を絶たない。 自殺サイトすべて撤廃してはどうだろうか。



 そもそも、自殺系サイトの定義があいまいですが、広義の意味では、自殺に関する話題があるサイトということになります。その意味では、このトピックも「自殺系サイト」のひとつとなります。



 そのため、自殺の手段についての情報が載っているサイトや集団自殺を呼びかけるサイトだけでなく、



 自殺に関連した記事をデータベースにしたサイト

 自殺統計についてふれているサイト

 自殺について考えを述べているサイト

 自殺念慮者を明示してのブログ

 自殺予防センターなどの自殺予防に関するサイト



 こうしたサイトも、一般に「自殺系サイト」に含まれます。



 いわゆる「ネット心中」(インターネットで呼びかけて心中相手を探して自殺すること)は、日本よりも韓国のほうが早かったのですが、韓国では、その後、自殺を呼びかけるサイトを削除するようになりました。しかし、自殺予防サイトで知り合った人同士の心中が起きてしまいました。



 自殺系サイトの管理人やユーザーを取材していますが、そうした経験から考えると、たしかに、「自殺系サイト」があるから亡くなってしまった人がいます。一方で、「自殺系サイト」にアクセスできたことで、生きる希望を見出せた人もいます。ただ、これは、前者が統計上数字に表すことができても、後者が数値化できません。



 硫化水素自殺の方法を記述したサイトを、警察庁が「有害指定」をして、インターネット・ホットラインセンターが、プロバイダ等に削除依頼をしました。 ただ、プロバイダ協会に入っていないプロバイダ等は、削除に応じないことが考えられます。たとえば、2ちゃんなるはプロバイダ協会には未加盟で、しかも独自に「削除ガイドライン」を設けていますが、そのガイドラインにはあてはまりません。だから、削除はされないことでしょう。



 また、海外のプロバイダ等でそうした内容がある場合は、やはり、削除依頼の対象外となっています。




○公的な施設にきちんと相談しないのはなぜだろうか。



 そもそも、公的な施設に相談しない理由はいくつかあります。



 ・電話相談については、自殺念慮者が死にたいと思うときはなぜかタイミングが重なってしまい、電話が通じないことが多いのです=つまり回線がパンクする。



 ・また、一般的に相談する場合、診療室場面や相談室場面だけであり、その時間以外は原則的に相談を受け付けません。そうした時間帯に、孤独感を埋める手段のひとつが自殺系サイトであること。



 ・現実に自殺対策が貧弱で、特に若者対策はほとんどなされていない。



  電話する行為ができない人はたしかにいます。



 しかしながら、せっかく電話しても、実際、つながりません。



 たしかに、昼間の時間に電話してもつながります。でも、自殺念虜のある人が孤独になるタイミングは共通するようで、深夜や季節の変わり目だったりします。そうすると、実際問題、つながりにくくなります



 回線が少ないのが一番の原因です。少ない回線の中、一人の相談時間が決まっているわけではないので、一人が回線を独占することもあります。独占状態になること自体は悪いことではありませんが。



 電話する行為ができ、たとえば、東京でつながらないので、地方に電話する人も少なくありません。しかし、他でもつながりにくいのは変わりありません。



 あと、電話ではなかなか無理という、特に若年層向けに、いのちの電話は、インターネット相談を始めています。



 しかし、メールのみの受付になっています。そのため、返事がなかなかない、と思いがちです。孤独を感じている人は、すぐに返ってこないと、「つながっていない」と感じて、より不安になるようです。



 そのため、すぐにレスがある可能性があるチャットや掲示板を利用するようです。



  自殺念虜がある人が公的機関に相談しない理由はいろいろあるでしょう。のこっちさんの言うような気持ちもあるでしょうし、私の取材でも千差万別でした。



 電話相談という意味では、そもそも電話で相談しない人、相談しようと思って電話をかけたが回線がつながらない人(その中には何度もチェレンジする人・しない人がいるでしょう)、電話がつながり話を聞いてくれた人....などさまざまだと思います。





○自殺支援サイトは具体性がありゃ犯罪じゃないかな?



 自殺支援サイト、ということですが、「支援」というのは何をもって「支援」なのか、ということですね。たとえば、ドクターキリコ事件の際には、自殺は支援せず、むしろ死なないために「死ねる薬」を配送しました(彼自身は、目の前に「いつでも死ねる道具」があれば、すぐには死なないのではないか、という考えがありました)。しかし、実際には薬を飲んでしまった。この場合は、支援の意思はありません。



 「支援」という意味で、明確だったのは、川崎市で起きた自殺幇助事件です。この場合、被告は被害者の依頼に基づき、殺しています。自殺幇助としての実行行為をしてしまったわけです。しかし、被告が作ったサイトは、自殺支援を目的としたサイトではなく、「何でも屋」のサイトでした。



 では、硫化水素練炭自殺のみならず、他の自殺方法を解説しているサイトがあります。このサイトは情報提供が主目的で、支援そのものを目的としていません(ただ、一部には明らかにあおっているサイトはあります)。自殺方法が載っているだけですが、もしこれが削除対象となるのなら、新聞記事や小説、マンガ、論文なども同じようなことが言えます。




○たとえば励ましの言葉を書き込んでみるとか。

 実際、そういう掲示板の利用者はいますよ。自殺掲示板でも、予防を強く打ち出すと、自殺念虜者が離れて行くことを知っている管理者は、「自殺予防」というキーワードを持ち込んでいません。また、自殺掲示板の利用者の中には、自殺念虜者を止めるために、アクセスしている人もいますね。



○人は「自殺する」ということを平気に口に出さないと思うし、やるからには絶対的な理由・決心があると思う。



 決心はつねに揺れています。その意味では、「絶対的な」ものでありません。私が取材してきた自殺願望者たちの話を聞くと、たしかに、「自殺する」「死にたい」と平気に口に出さないですね。でも、いろいろな言動によって、話せる人を探しています。探しやすいのがネットではありますが。一方、自殺したい人の中でも、哲学的な信念を持っている人のほかは、絶対的な理由・決心があるわけではない人が多いです。

 ただ、自殺したいと思うには理由があるけど、自殺したくなくなるには明白な理由がなかったりする。いつも、私は、「自殺願望は恋愛感情と逆」という言い方をします。恋愛の場合は、好きになる理由はいらないけど、嫌いになるには理由がいる、と思うので。




○自殺への抵抗感が低い人が、自殺サイトの影響によって自殺する。でも外部からの情報がなかったら自殺という結論にたどり着かなかったかも。 って考えると後押ししている気もするんですよね。



 たしかに、それは言えると思います。ただ、自殺系サイトの影響がなければ死ななかったのかどうかは、検証できません。逆もあります。そうした情報があったから死ななかった、というケースも。その場合も、その情報がなかったら、死ぬのかも検証できません。個別には言えるのでしょうが、全体で見るとわからないことが多いですね。

 ただ、ネットがなくても、外部からの情報は常にあります。テレビやラジオ、新聞、雑誌、マンガ、小説などはすべていえることです。かつて、「野猿が解散した」から自殺した少女もいます。また、岡田有希子が自殺したことをうけて、自殺が連鎖したこともありました。いじめ自殺の報道が過熱すると、自殺が連鎖することも言われています。