図書館と自由

 違法な資料が図書館にある場合、それを閲覧・コピーの制限をどのようにくわえるべきかは、単純な問題ではないです。記事中、法務省刑事局の風紀担当が「有罪認定されないと判断できないという言い分はおかしい」とのコメントを寄せていますが、このコメントがおかしいのです。図書館がかってに「(禁止するべき)児童ポルノ」と判断することのほうがあやういのです。内規も「児童ポルノに該当すると裁判で確定、あるいは係争中の資料」とあるわけですから。

 「児童ポルノ」閲覧制限 国会図書館、摘発対象指摘受け 
2005年07月17日12時57分

 少女のヌードを写すなど法で禁じた「児童ポルノ」にあたる可能性がある本について、国立国会図書館が閲覧などの利用制限を始める。児童ポルノ禁止法で有罪とされた写真集を同図書館が閲覧・コピーできる状態にしていたことが今春、発覚。その写真集を利用禁止としたものの、同図書館はほかにも同様の写真集などを所蔵する。法務省に「摘発対象になりうる」と指摘され、あわてて対応に乗り出した。
 国会図書館は出版社に対し書籍や雑誌などの出版に際して納本を義務づけている。このため、99年の児童ポルノ禁止法施行以前には一般の書店にも出回った少女の裸を扱った写真集や雑誌を所蔵する。
 同法施行に合わせ、「利用制限措置等に関する内規」を改正、「児童ポルノに該当すると裁判で確定、あるいは係争中の資料」について、閲覧やコピーを禁止できるようにしていた。
 だが実態は、情報収集手段がなかった。「新聞に目を通す」(収集企画課)だけで、実際にどんなタイトルの本が児童ポルノとされたか把握できていなかった。
 今年4月、朝日新聞の指摘を受けた写真集を調べたところ、02年に同法違反(販売)で有罪が確定していたとわかり、法施行後初めて、利用禁止措置をとった。その写真集はそれまで、閲覧もコピーも自由だった。
 ほかにも漏れている可能性があるとして、同図書館は有罪、あるいは起訴された事件の写真集などの情報を法務省に求めたが、「リストアップしていない」と断られた。逆に、児童ポルノにあたる構成要件は法で明示していることから、「図書館で判断できるはず。もし児童ポルノを提供しているとわかれば、摘発対象にもなりうる」と、自主的な対応を迫られた。
 表現の自由との兼ね合いから、「検閲のようなことは難しい」としながらも、法の構成要件や判例を参考に該当しそうな写真集や雑誌を今年中にリストアップ。個別に全国各地で有罪認定か起訴されていないかを調べ、該当すれば内規に従って利用禁止、そうでないものについても、今後、違法性を問われるおそれがあれば何らかの制限を検討するという。調査は今月中に始め、リストアップしたものから利用を制限する。
 法務省刑事局の風紀担当は「有罪認定されないと判断できないという言い分はおかしい」と話す。
 国会図書館は「納本制度がある当館ならではの悩み。制限には議論のあるところだが、かたくなに内規だけ守っていては実態に対応できない」としている。

      ◇      ◇

 〈キーワード・児童ポルノ禁止法〉 「児童ポルノ天国」という国際的批判を背景に、99年11月に施行。18歳未満を「児童」と規定する。「児童ポルノ」の構成要件の一つに「衣服の全部または一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ、または刺激するもの」とあり、性行為をしていなくても、裸やそれに近い姿を写していれば対象になりうる。製造や陳列、提供などを禁じている。
 http://www.asahi.com/national/update/0717/TKY200507160368.html

 朝日新聞は、「児童ポルノ」処罰法を優先的に、しかも無批判に捉えて、国会図書館を非難しているように思われます。しかも、<キーワード>の中でも、いまだに「児童ポルノ天国」という言葉を使っています。何をもって、日本が「児童ポルノ天国」というのか。国際的批判とは誰がしたのか、というのが非常に曖昧であるにもかかわらずです。

 図書館には、「自由宣言」があるのを知っていますか?
 私がこの「自由宣言」を知ったのは、恥ずかしながら、大学を卒業してからです。大学を卒業して、新聞社に入ったのですが、最初は内勤でした。そのため、昼間は時間があったので、地域のひとたちとのネットワークの中で、ミニコミを作りました(半年くらいだったかな?)。そのとき、地域のことが知りたくて図書館に出入りしているうちに、この宣言を知るようなりました。
 以上の事案から考えれば、「自由宣言」の、第3−1−(2) わいせつ出版物であるとの判決が確定したもの、にあたり、提供の自由に制限が加わりますが、これも再検討を含めて、条件的な制限です。

 そういえば、その後、松本サリン事件があったときに、サリンを殺人の道具とした小説が松本市立中央図書館が閲覧制限をしていました。そんことが問題となり、利用者懇談会を開き、図書館が利用者の意見を聞いたことがありました。

図書館の自由に関する宣言

日 本 図 書 館 協 会
1 9 5 4  採 択
1 9 7 9  改 訂
  
 図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。
 日本国憲法は主権が国民に存するとの原理にもとづいており、この国民主権の原理を維持し発展させるためには、国民ひとりひとりが思想・意見を自由に発表し交換すること、すなわち表現の自由の保障が不可欠である  知る自由は、表現の送り手に対して保障されるべき自由と表裏一体をなすものであり、知る自由の保障があってこそ表現の自由は成立する。
 知る自由は、また、思想・良心の自由をはじめとして、いっさいの基本的人権と密接にかかわり、それらの保障を実現するための基礎的な要件である。それは、憲法が示すように、国民の不断の努力によって保持されなければならない。
 すべての国民は、いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有する。この権利を社会的に保障することは、すなわち知る自由を保障することである。図書館は、まさにこのことに責任を負う機関である。
 図書館は、権力の介入または社会的圧力に左右されることなく、自らの責任にもとづき、図書館間の相互協力をふくむ図書館の総力をあげて、収集した資料と整備された施設を国民の利用に供するものである。
 わが国においては、図書館が国民の知る自由を保障するのではなく、国民に対する「思想善導」の機関として、国民の知る自由を妨げる役割さえ果たした歴史的事実があることを忘れてはならない。図書館は、この反省の上に、国民の知る自由を守り、ひろげていく責任を果たすことが必要である。
 すべての国民は、図書館利用に公平な権利をもっており、人種、信条、性別、年齢やそのおかれている条件等によっていかなる差別もあってはならない。
 外国人も、その権利は保障される。
 ここに掲げる「図書館の自由」に関する原則は、国民の知る自由を保障するためであって、すべての図書館に基本的に妥当するものである。
  この任務を果たすため、図書館は次のことを確認し実践する。

第1 図書館は資料収集の自由を有する
 1.図書館は、国民の知る自由を保障する機関として、国民のあらゆる資料要求にこたえなければならない。
 2.図書館は、自らの責任において作成した収集方針にもとづき資料の選択および収集を行う。その際、
(1) 多様な、対立する意見のある問題については、それぞれの観点に立つ資料を幅広く収集する。
(2) 著者の思想的、宗教的、党派的立場にとらわれて、その著作を排除することはしない。
(3) 図書館員の個人的な関心や好みによって選択をしない。
(4) 個人・組織・団体からの圧力や干渉によって収集の自由を放棄したり、紛糾をおそれて自己規制したりはしない。
(5) 寄贈資料の受入にあたっても同様である。図書館の収集した資料がどのような思想や主 張をもっていようとも、それを図書館および図書館員が支持することを意味するものではない。
 3.図書館は、成文化された収集方針を公開して、広く社会からの批判と協力を得るようにつとめる。

第2 図書館は資料提供の自由を有する
 1.国民の知る自由を保障するため、すべての図書館資料は、原則として国民の自由な利用に供されるべきである。  図書館は、正当な理由がないかぎり、ある種の資料を特別扱いしたり、資料の内容に手を加えたり、書架から撤去したり、廃棄したりはしない。
 提供の自由は、次の場合にかぎって制限されることがある。これらの制限は、極力限定して適用し、時期を経て再検討されるべきものである。
(1) 人権またはプライバシーを侵害するもの
(2) わいせつ出版物であるとの判決が確定したもの
(3) 寄贈または寄託資料のうち、寄贈者または寄託者が公開を否とする非公刊資料

 2.図書館は、将来にわたる利用に備えるため、資料を保存する責任を負う。図書館の保存する資料は、一時的な社会的要請、個人・組織・団体からの圧力や干渉によって廃棄されることはない。
 3.図書館の集会室等は、国民の自主的な学習や創造を援助するために、身近にいつでも利用できる豊富な資料が組織されている場にあるという特徴を持っている。
 図書館は、集会室等の施設を、営利を目的とする場合を除いて、個人、団体を問わず公平な利用に供する。
 4.図書館の企画する集会や行事等が、個人・組織・団体からの圧力や干渉によってゆがめられてはならない。

第3 図書館は利用者の秘密を守る
 1.読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない。ただし、憲法第35条にもとづく令状を確認した場合は例外とする。
 2.図書館は、読書記録以外の図書館の利用事実に関しても、利用者のプライバシーを侵さない。
 3.利用者の読書事実、利用事実は、図書館が業務上知り得た秘密であって、図書館活動に従事するすべての人びとは、この秘密を守らなければならない。

第4 図書館はすべての検閲に反対する
 1.検閲は、権力が国民の思想・言論の自由を抑圧する手段として常用してきたものであって、国民の知る自由を基盤とする民主主義とは相容れない。
 検閲が、図書館における資料収集を事前に制約し、さらに、収集した資料の書架からの撤去、廃棄に及ぶことは、内外の苦渋にみちた歴史と経験により明らかである。
 したがって、図書館はすべての検閲に反対する。
 2.検閲と同様の結果をもたらすものとして、個人・組織・団体からの圧力や干渉がある。図書館は、これらの思想・言論の抑圧に対しても反対する。
 3.それらの抑圧は、図書館における自己規制を生みやすい。しかし図書館は、そうした自己規制におちいることなく、国民の知る自由を守る。


図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。
 図書館の自由の状況は、一国の民主主義の進展をはかる重要な指標である。図書館の自由が侵されようとするとき、われわれ図書館にかかわるものは、その侵害を排除する行動を起こす。このためには、図書館の民主的な運営と図書館員の連帯の強化を欠かすことができない。
 図書館の自由を守る行動は、自由と人権を守る国民のたたかいの一環である。われわれは、図書館の自由を守ることで共通の立場に立つ団体・機関・人びとと提携して、図書館の自由を守りぬく責任をもつ。
 図書館の自由に対する国民の支持と協力は、国民が、図書館活動を通じて図書館の自由の尊さを体験している場合にのみ得られる。われわれは、図書館の自由を守る努力を不断に続けるものである。
 図書館の自由を守る行動において、これにかかわった図書館員が不利益をうけることがあっては ならない。これを未然に防止し、万一そのような事態が生じた場合にその救済につとめることは、 日本図書館協会の重要な責務である
(1979.5.30 総会決議)
 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jla/ziyuu.htm

 そういえば、第1の2−(3)図書館員の個人的な関心や好みによって選択をしない、に違反する行為が先日ありました。「新しい教科書をつくる会」の関係者の著作物を図書館員がかってに破棄していましたね。

つくる会書籍:廃棄訴訟、東京高裁に差し戻す 最高裁

 千葉県の船橋市立西図書館の蔵書だった著書を捨てられ精神的苦痛を受けたとして、作家の井沢元彦氏らと「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーら7個人1団体が、同市に1人当たり300万円の慰謝料の支払いを求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(横尾和子裁判長)は14日、原告の請求を棄却した1、2審判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻した。判決は「著作者には公立図書館で自分の思想や意見を市民に伝える法的利益がある」との初判断を示し、市による利益侵害を認めた。差し戻し後の審理で、慰謝料額が算定されることになる。
 1、2審判決によると、同図書館では01年8月、つくる会や会員らが編著した107冊が、市の廃棄基準に該当しないにもかかわらず処分された。
 原告らは「つくる会に対する思想差別を背景に、会と関係があるとの不当な理由で廃棄された」と主張。「憲法が保障した表現の自由に基づき著書が公正に閲覧される権利や、図書館利用者への思想表現の伝達を不当に妨害されない著者の権利を侵害された」と訴えた。市側は「市民の閲覧権侵害には当たるが、著者の権利侵害にはならず、原告への賠償義務はない」と反論した。
 第1小法廷は、公立図書館を「住民に資料を提供してその教養を高めることを目的とした公共の場」と位置づけ、職員が独断で資料を廃棄することは職務上の義務に違反すると判断。そのうえで「表現の自由憲法で保障された基本的人権であることも考えると、著作者が公立図書館で思想や意見を伝える利益は法的保護に値する」と述べた。
 1、2審は書籍を廃棄した図書館職員の行為を「許されないもの」としつつ「著者には図書館で著書を市民に閲覧させる権利はなく、廃棄されても市の法的責任は追及できない」と判断し請求を棄却。職員個人に対する上告は既に最高裁で退けられている。【木戸哲】
 ▽船橋市の話 判決内容を十分検討したうえでコメントさせていただきたい。

 ◇解説=公立図書館の役割重く見る
 この日の最高裁判決は、公立図書館の役割を重視し、作家らに公立図書館で思想や意見を伝える「法的利益」があるとの結論を導き出した。
 公立図書館の職員が不当に蔵書を廃棄した場合、閲覧権という市民の権利侵害が認められる可能性は高い。だが、今回の訴訟は著作者が起こしたもので、所蔵された書籍に対し、作家らにどのような権利や利益があるかが争点となっていた。
 著作権法上は、出版・流通した後の書籍そのものに対して、作家らの権利は原則的に保障されていない。今回のケースでも、図書館に購入された書籍の取り扱いについて、法律が認めた権利はないといえる。
 この日の判決も1、2審同様、著作者らの「権利」の侵害を認めたものではないが、利用者の知る権利を重視。著作者から見た場合には、公立図書館で思想や意見を伝達する「利益」を認め、著書の大量廃棄は不当な利益侵害と結論付けた。
 こうした利益の侵害は、図書館側の不当な廃棄があって初めて認められるものだ。公立図書館に、著書の厳密な取り扱いが求められるのは言うまでもない。【木戸哲】
毎日新聞 2005年7月14日 11時32分 (最終更新時間 7月14日 13時27分)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050714k0000e040035000c.html

 ちなみに、「自由宣言」を守るために、「図書館員の倫理綱領」が作られています。知らない、あるいは 忘れた図書館員もいることでしょう。図書館員は単なる「本好き」であってはなりません。資料収集・提供の専門家であるのです。

図 書 館 員 の 倫 理 綱 領

日 本 図 書 館 協 会
1980.6.4 総会決議
 この倫理綱領は、「図書館の自由に関する宣言」によって示された図書館の社会的責任を自覚し、自らの職責を遂行していくための図書館員としての自律的規範である。
 この綱領は、「図書館の自由に関する宣言」と表裏一体の関係にある。この宣言に示された図書館の社会的責任を日常の図書館活動において果たしていくのは、職業集団としての内容の充実によらな ければならない。この綱領は、その内容の充実を目標とし、図書館員としての職責を明らかにするこ とによって、自らの姿勢をただすための自律的規範である。したがってこの綱領は、単なる徳目の列 挙や権利の主張を目的とするものでなく、すべての館種に共通な図書館員のあり方を考え、共通な基 盤を拡大することによって、図書館を社会の有用な機関たらしめようという、前向きでしかも活動的 なものである。
 この綱領でいう図書館員とは、図書館に働くすべての職員のことである。綱領の各条項の具体化に 当たっては、図書館長の理解とすぐれた指導力が不可欠である。
 綱領の内容はこれまでの図書館活動の実践の中から生まれたものである。それを倫理綱領という形 にまとめたのは、今や個人の献身や一館の努力だけでは図書館本来の役割を果たすことができず、図 書館員という職業集団の総合的な努力が必要となり、かつ図書館員のあるべき姿を、図書館員と利用者と、図書館を設置する機関または団体との三者が、共に考えるべき段階に立ち至ったからである 。
 この綱領は、われわれの図書館員としての自覚の上に成立する。したがってその自覚以外にはいかなる拘束力もない。しかしながら、これを公表することによって、われわれの共通の目的と努力、さらにひとつの職業集団としての判断と行動とを社会に誓約することになる。その結果、われわれはまず図書館に大きな期待を持つ人びとから、ついで社会全体からのきびしい批判に自らをさらすことになる。
 この批判の下での努力こそが、図書館員という職業集団への信頼を生む。図書館員の専門性は、この信頼によってまず利用者に支えられ、さらに司書職制度という形で確認され、充実されねばならない。そしてその専門性がもたらす図書館奉仕の向上は、すべて社会に還元される。そうした方向へわれわれ図書館員全体が進む第一歩がこの倫理綱領の制定である。
 この綱領は、すべての図書館員が館種、館内の地位、職種及び司書資格の有無にかかわらず、綱領を通して図書館の役割を理解し、綱領実現への努力に積極的に参加することを期待している。さらに、図書館に働くボランティアや図書館同種施設に働く人びと、地域文庫にかかわる人びと等による理解をも望んでいる。
 綱領の構成は、図書館員個人の倫理規定にはじまり、組織体の一員としての図書館員の任務を考え、ついで図書館間および図書館以外の人びととの協力に及び、ひろく社会における図書館員の果たすべき任務に至っている。

(図書館員の基本的態度)
第1 図書館員は、社会の期待と利用者の要求を基本的なよりどころとして職務を遂行 する。
 図書館は社会の期待と利用者の要求の上に成立する。そして、ここから国民の知る自由の保障という図書館の目的も、またすべての国民への資料提供という基本機能も導き出される。したがって、図書館へのあらゆる期待と要求とを的確に把握し、分析し、かつ予測して、期待にこたえ、要求を実現するように努力することこそ、図書館員の基本的な態度である。

(利用者に対する責任)
第2 図書館員は利用者を差別しない。
 国民の図書館を利用する権利は平等である。図書館員は、常に自由で公正で積極的な資料提供に心がけ、利用者をその国籍、信条、性別、年齢等によって差別してはならないし、図書館に対するさまざまな圧力や干渉によって利用者を差別してはならない。また、これまでサービスを受けられなかった人びとに対しても、平等なサービスがゆきわたるように努力すべきである。

第3 図書館員は利用者の秘密を漏らさない。
 図書館員は、国民の読書の自由を保障するために、資料や施設の提供を通じて知りえた利用者の個人名や資料名等をさまざまな圧力や干渉に屈して明かしたり、または不注意に漏らすなど、利用者のプライバシーを侵す行為をしてはならない。このことは、図書館活動に従事するすべての人びとに課せられた責務である。

(資料に関する責任)
第4 図書館員は図書館の自由を守り、資料 の収集、保存および提供につとめる。
 図書館員は、専門的知識と的確な判断とに基づいて資料を収集し、組織し、保存し、積極的に提供する。そのためには、資料の収集・提供の自由を侵すいかなる圧力・検閲をも受け入れてはならないし、個人的な関心や好みによる資料の収集・提供をしてはならない。 図書館員は、私的報酬や個人的利益を求めて、資料の収集・提供を行ってはならない。

第5 図書館員は常に資料を知ることにつとめる。
 資料のひとつひとつについて知るということは決して容易ではないが、図書館員は常に資料を知る努力を怠ってはならない。資料についての十分な知識は、これまでにも図書館員に対する最も大きな期待のひとつであった。図書館に対する要求が飛躍的に増大している今日、この期待もいちだんと高まっていることを忘れてはならない。さらに、この知識を前提としてはじめて、潜在要求をふくむすべての要求に対応し、資料の収集・提供活動ができることを自覚すべきである。

(研修につとめる責任)
第6 図書館員は個人的、集団的に、不断の 研修につとめる。
 図書館員が専門性の要求をみたすためには、(1)利用者を知り、(2)資料を知り、(3)利用者と資料を結びつけるための資料の適切な組織化と提供の知識・技術を究明しなければならない。そのためには、個人的、集団的に日常不断の研修が必要であり、これらの研修の成果が、図書館活動全体を発展させる専門知識として集積されていくのである。その意味で、研修は図書館員の義務であり権利である。したがって図書館員は、自主的研修にはげむと共に研修条件の改善に努力し、制度としての研修を確立するようつとめるべきである。

(組織体の一員として)
第7 図書館員は、自館の運営方針や奉仕計 画の策定に積極的に参画する。
 個々の図書館員が積極的な姿勢をもたなければ、図書館は適切・円滑に運営することができない。図書館員は、その図書館の設置目的と利用者の要求を理解し、全員が運営方針や奉仕計画等を十分理解していなければならない。そのためには、図書館員は計画等の策定にたえず関心をもち、積極的に参加するようつとめるべきである。

第8 図書館員は、相互の協力を密にして、集団としての専門的能力の向上につとめる。
 図書館がその機能を十分に果たすためには、ひとりの図書館員の力だけでなく、職員集団としての力が発揮されなければならない。このためには、図書館員は同一職種内の協調と共に、他職種の役割をも正しく理解し、さらに、地域および全国規模の図書館団体に結集して図書館に働くすべての職員の協力のもとに、それぞれの専門的知識と経験を総合する必要がある。図書館員の専門性は、現場での実践経験と不断の研修及び職員集団の協力によって高められのであるから、図書館員は、経験の累積と専門知識の定着が、頻繁すぎる人事異動や不当配転等によって妨げられないようつとめるべきである。

第9 図書館員は、図書館奉仕のため適正な労働条件の確保につとめる。
 組織体の一員として図書館員の自覚がいかに高くても、劣悪な労働条件のもとでは、利用者の要求にこたえる十分な活動ができないばかりか、図書館員の健康そのものをも維持しがたい。適正数の職員配置をはじめ、労働災害や職業病の防止、婦人図書館員の母性保護等、適切な図書館奉仕が可能な労働条件を確保し、働きやすい職場づくりにつとめる必要がある。  図書館員は図書館奉仕の向上のため、図書館における労働の独自性について自ら追求すべきである。

(図書館間の協力)
第10 図書館員は図書館間の理解と協力につとめる。
 図書館が本来の目的を達成するためには、一館独自の働きだけでなく、組織的に活動する必要がある。各図書館は館種・地域・設置者の別をこえ、理解と協力につとめるべきである。図書館員はこのことをすべて制度上の問題に帰するのでなく、自らの職業上の姿勢としてとらえなければならない。図書館間の相互協力は、自館における十分な努力が前提となることを忘れてはならない。

(文化の創造への寄与)
第11 図書館員は住民や他団体とも協力して、社会の文化環境の醸成につとめる。
 図書館は孤立した存在であってはならない。地域社会に対する図書館の協力は、健康で民主的な文化環境を生み出す上に欠くことができない。他方、この文化環境によって図書館の本来の機能は著しい発達をうながされる。図書館員は住民の自主的な読書運動や文庫活動等をよく理解し、図書館の増設やサービス改善を求める要求や批判に、謙虚かつ積極的にこたえなければならない。さらに、地域の教育・社会・文化諸機関や団体とも連携を保ちながら、地域文化の向上に寄与すべきである。

第12 図書館員は、読者の立場に立って出 版文化の発展に寄与するようつとめる。
 出版の自由は、単に資料・情報の送り手の自由を意味するのではなく、より根本的に受け手の知る自由に根ざしている。この意味で図書館は、読者の立場に立って、出版物の生産・流通の問題に積極的に対処する社会的役割と責任を持つ。また図書館員は、「図書館の自由に関する宣言」の堅持が、出版・新聞放送等の分野における表現の自由を守る活動と深い関係を持つことを自覚し、常に読者の立場に立ってこれら関連分野との協力につとめるべきである。

 日本図書館協会は、わが国の図書館の現状にかんがみこの倫理綱領を作成し、提唱する。本協会はこの綱領の維持発展につとめると共に、この綱領と相いれない事態に対しては、その改善に向って不断に努力する。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jla/rinri.htm