少年の内省深まらず 長崎の男児誘拐殺人

 2003年に長崎市で起きた男児誘拐殺人事件で、長崎家裁は22日、児童自立支援施設に収容中の加害少年(14)=事件当時中学1年=の処遇を再検討する少年審判を開き、鍵のかかる個室に入れるなど行動の自由を制限する強制的措置の1年間延長を決めた。
 河畑勇裁判官は決定要旨で、少年の現状について一応の進展があるとしつつ「事件に対する内省が十分に深まったとは言えない」と指摘。「社会復帰のめどは全く立たない」「再犯の危険性はいまだに否定できない状態にある」とした。
 少年は03年9月の少年審判児童自立支援施設送致が決まり、1年間の強制的措置も認められた。措置の延長は昨年に続いて2回目で、開放処遇が原則の施設内で強制的措置が3年目に入る異例の事態となった。
 決定要旨によると、少年はささいなことでパニックに陥ったり、不愉快なことがあると逃げ出すという問題行動が改善されていないという。
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   長崎市男児誘拐殺人事件の少年審判で、長崎家裁が出した決定要旨は次の通り。

 【主文】

 少年に対し、2005年9月29日から向こう1年間、強制的措置をとることができる。

 【理由】

 1、処遇の成果および今後の課題

 (1)障害の療育
 これまでの処遇により、少年の外的刺激を処理する能力や対人的コミュニケーション能力は幾分向上している。しかし、少年がささいなことでパニックに陥ることや、許容量を超えた不愉快なことがあると逃げ出すという行動傾向は改善されておらず、障害の療育について、前件(04年の少年審判)時から大きな進展があったとは認められない。
 今後とも少年に対し、日常生活における職員の指導や寮生との交流を通じ、感情を制御する能力やコミュニケーション能力の向上を図るとともに、やがては少年に意図的に精神的負担をかけるなどし、その対処方法を個々の場面ごとに訓練していく必要がある。

 (2)事件への直面化
 これまでの処遇により、事件への直面化には一応の進展がみられるが、相応の成果が上がっているとまでは認め難く、少年の事件に対する内省が十分に深まったということもできない。
 したがって、事件への直面化についても、前件時から大きな進展があったと認めることはできない。少年に対しては、さらに深く被害者や遺族の気持ちを考えさせ、少年に贖罪(しょくざい)の意識を持たせる必要がある。

 2、処遇の見通し

 少年の退所時期については確定していない。収容期間について裁判所に決定権限はないものの、少年が再び同じ過ちを犯さないようにするためには、少年の変化を慎重に見極めつつ、障害の療育や贖罪教育などについて相応の処遇効果を上げることが必要である。
 そのためには少年の長期間の収容が見込まれるのであって、このことは前々件(03年の少年審判)および前件の決定においても重ねて指摘されたところである。また、少年の障害の療育および事件への直面化については、一応の進歩はみられるものの、前件時と比較して大きな進展があったとまでは認められないほか、少年の再犯の危険性はいまだ否定できない状態にある。
 これらの事情に照らせば、現時点において、少年の処遇効果が同人の社会復帰を可能とする程度あるいはそれに近い水準にまで達していないことは明らかである。
 このように少年に対する処遇が十分な成果を上げていないことに加え、目標達成にはなお相当な期間を要することが見込まれることなどをも勘案すれば、少年の社会復帰のためには、今後も長期間にわたる施設内処遇が不可欠であると言わざるを得ない。

 3、強制措置の必要性
 これまでの処遇において、少年に大きな規則違反や問題行動は見られていない。しかし少年は、その特性から集団生活におけるストレスや対人関係の問題からパニックに陥ることが度々あったほか、今後、障害の療育の際に意図的に精神的負荷をかけられたり、事件への直面化の際に被害の重大性等を直視させられる中で、パニックに陥ったり精神的不安定になることが想定される。
 また、処遇に新しい試みが導入された場合には、少年に精神的負荷がかかることが予想される。これらの場合に、少年がどのような行動に出るかは予想し難い。また、今後の処遇においてこのような事態がいつ発生するかは予想し難い。そうすると、少年に対しては一定の場合には緊急措置として強制的措置をとる必要性があると認められる。
 これまで児童自立支援施設が人員の配置や施錠の在り方について相当に配慮し、少年の人権を不当に侵害することのないように努力してきたことなどを考慮すれば、少年に対する処遇成果を上げつつ、不測の事態に備えさせるため、特に日数を限定することなく強制的措置を許可するのが相当である。
 強制的措置の期間については、少年の退所時期が確定していない上、時期については今後の処遇の成果等を踏まえて決せられるべきものであり、現時点において、いまだ社会復帰のめどが全く立たず、長期間の処遇が必要となる少年に対しては、申請どおり向こう1年間にわたって強制的措置を許可するのが相当である。
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