共謀罪はどこまで適用されるのか?

 小泉首相郵政選挙により、三分の二以上を確保した巨大与党。参院で否決されても、衆院で与党が合意すればなんでも法案は通過してしまう情勢です。まあ、郵政民営化は、それを問うて結果として与党が勝利したわけですから、民営化の善し悪しは別として、法案の成立は仕方がないことでしょう。
 しかし、与党が三分の二を占めるということは、懸案のひとつ、「共謀罪」も通過してしまう可能性が大きくあります。そこで、共謀罪が成立した場合、どのような危険性あるのか。どの程度の適用範囲なのか。どこまでの話が「罪」になりえるか。
 そのヒントが国会答弁にあります。

 前回の国会法務委員会(5年7月12日)で、公明党の漆原良夫氏の質問に、南野法務大臣は以下のように答えた。
 

 ○南野国務大臣 我々は、国民の安心、安全を守るための法律をつくっていこうとしておりますので、そのプロセスで不安になられるということは、我々も大変慎重に論議をしていかなければならないなというふうに思っております。
 先生が今御指摘のことでございますけれども、今回の法案が定める共謀罪は、二人以上の人が重大かつ組織的な犯罪を実行しようとして共謀する行為を処罰するものであり、人の内心にとどまる意識、また意思や思想を処罰するものではありません。また、共謀する行為と言えるためには、特定の犯罪を実行しようという具体的、現実的な合意をする行為がなされなければならず、心の中で悪い考えを抱いているというだけでは共謀罪が成立しないことは先生おっしゃるとおり当然でありますし、また、そのような考えを外に出したとしましても、漠然とした相談程度ではやはり共謀罪は成立しないということでございます。
 したがいまして、先生の御指摘のとおり、今回の法案が定める共謀罪を設けることによっても、決して思想の処罰に近づくものではありませんということをお伝えできると思っております。

 この答弁によると、適用範囲は
 ・二人以上の人
 ・重大かつ組織的な犯罪 (=懲役4年以上の罪)
 ・実行しようと共謀する行為
 であり、
 ・人の内心にとどまる意識、または意思や思想
 は除外されるとしています。
 これなら、特定の団体や犯罪について取り締まるんだろうと、安心な気がしてきます。しかも、
 ・特定の犯罪を実行しようという具体的、現実的な合意をする行為
 が処罰対象なのです。
 しかし、民主党の松野信夫氏の質問には曖昧な答弁になっています。しかも、法務省の見解通りになれば、危険性をはらむ可能性が大きいのです。
 ちなみに、以下で議論対象の「第五条」(政府仮訳)は、

第五条 組織的な犯罪集団への参加の犯罪化

  1 締約国は 、 故意に行われた次の行為を犯罪とするため、 必要な立法その他の措置をとる。
  (a) 次の一方又は双方の行為(犯罪行為の未遂又は既遂に係る犯罪とは別個の犯罪とする。)
  (i)金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のために重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意することであって、国内法上求められるときは、その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴い又は組織的な犯罪が関与するもの
  (ii) 組織的な犯罪集団の目的及び一般的な犯罪活動又は特定の犯罪を行い意図を認識しながら、次の活動に積極的に参加する個人の行為
   a 組織的な犯罪集団の犯罪活動
   b 組織な犯罪集団のその他の活動(当該個人が、自己の参加が当該犯罪集団の目的の達成に寄与することを知っているときに限る)。
 (b)組織的な犯罪が関与する重大な実行を組織し、指示し、ほう助し、教唆し若しくは援助し又はこれについて相談すること

 以下、やりとりです。

○松野(信)委員 そうすると、第五条一項の(b)の方は、これは国内法化は必要ないとお考えですか、それとも別のお考えがあるんでしょうか。
○富田大臣政務官 現行法の幇助犯、教唆犯で担保されているというふうに理解しております。
○松野(信)委員 そうすると、(b)の方は、もう既に教唆、幇助で国内法化が済んでいるから、これについては新たな手当ては必要ないんだ、今こういう御答弁をいただきました。
 しかし、(b)のところについて見ますと、それは「教唆」とか「ほう助」というふうにありますから、それは確かに、現行法上の教唆とか幇助というのがあるからそれで足りているというのもわからないではないんですが、(b)の最後のところに「相談すること。」というのがあるんですね。これは国内法でもう既に足りている、こういう理解ですか。
 ちょっと時計をとめてくださいよ、答弁できないなら。
○塩崎委員長 速記をとめてください。
    〔速記中止〕
○塩崎委員長 速記を起こしてください。
 富田政務官
○富田大臣政務官 「相談」という文言だけ見ますと、これまでの刑法における共同正犯、教唆犯、幇助犯にストレートに当たらないのではないかという前提で先生の今の御質問が出ていると思うんですが、基本的には、相談という行為は、共同して行うのか、あるいはその一部をだれかがその正犯を幇助するのか、あるいは教唆するのかというそれぞれの行為に含まれているというふうに法務省としては理解しております。
○松野(信)委員 しかし、それはちょっとおかしいんじゃないですか。相談がその教唆とか幇助に含まれていると今答弁がありましたけれども。
 それなら、この相談というのは、あくまで犯罪実行についていろいろと相談、ある意味では謀議をすることになりますから、では、この相談と、その前の五条の(a)の(i)の方の共謀とはどう違うんですか。
 答弁できなければ、ちょっと時計をとめてください。
○塩崎委員長 速記をとめてください。
    〔速記中止〕
○塩崎委員長 速記を起こしてください。
 富田政務官
○富田大臣政務官 先生の御指摘の(a)と(b)ですが、(a)の方は実行行為前の行為について規定しておりまして、(b)の方は「組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の実行を組織し、指示し、ほう助し、教唆し若しくは援助し又はこれについて相談すること。」というふうになっておりますので、実行行為を前提とした相談というふうになっておりますから、法務省としては、これはこれまでの共同正犯、幇助犯、教唆犯に含まれているというふうに理解しております。
○松野(信)委員 それはおかしいですよ。そうすると、(a)の方は実行を前提としない共謀というのがあり、(b)の方は実行を前提とする相談がありと、こういう理解ですか。本当によろしいですか、それで。
○富田大臣政務官 (a)の「次の一方又は双方の行為」の後に括弧書きで、犯罪行為の未遂または既遂に至る犯罪とは別個の犯罪という前提で(a)が立ち上げられておりますので、(a)の方はそこに至っていない、(b)の方は至っているということで、先ほど私が答弁したような解釈になるということであります。
○松野(信)委員 それはおかしいですよ。(b)の方も、あくまで一定の組織的な犯罪集団が関与して重大な犯罪についていろいろ組織をしたり相談をしたりという、これを独自に立法で措置をとるというふうに、この条約はそう読むのが私は常識的なところだと思いますよ。
 それで、(a)の方は、犯罪の未遂、既遂とは別に、共謀罪というだけで一つの犯罪が類型化されるというだけのことですから、今の富田さんの説明はちょっとおかしいと思いますが、どうですか。
○塩崎委員長 速記をとめてください。
    〔速記中止〕

 こうしてみると、共謀罪における「相談」という定義は、すごく曖昧です。法務省としては、犯罪行為の相談は、「これはこれまでの共同正犯、幇助犯、教唆犯に含まれているというふうに理解して」いるらしい。まずます、相談とはなにか。曖昧であるような感じです。