麻原彰晃こと、松本智津夫被告に死刑判決が下った。弁護団は即日控訴し、総辞職した。
 わたしは、裁判が始まった時刻、オウム事件の報道特番を見ていた。そして裁判官が主文を後回しに、判決理由を先に朗読したとのニュースを聞いて、
 「やはり、死刑か」
 通常、死刑判決の場合、被告が冷静さを保てるようにと、主文を後回しにすることが慣例になっているからだ。その後、わたしは、別件で共同通信社に向かう。社内では裁判の情報がアナウンスされている。昼頃まで社内にいたが、まだ主文は言い渡されない。夕方近くになるのだろうか、とふと思った。
 その後、共同通信社を出た後、元上司に電話した。いま、松本支局にいるので、おそらく河野さんの取材をしているだろうと思ったからだ。すると、やはり自宅近くでずっと待っていた。報道陣が60人くらい待機しているという。判決がおり、原稿を送ったころにまた電話しようと思った。
 そして、元上司から電話があったのは午後8時頃。河野さんのコメントはこれまでとほとんど変わらなかったことを知った。なぜ、彼はそこまで冷静で居られるのか。わたしには不思議だった。
 たしかに、死刑判決は確定したわけでもないし、確定したからといって、被害が救済されるわけでもない。仮に、ここで冷静さを失って涙ながらにコメントしたらどうなるか。おそらく、これまで無罪推定の立場を貫いてきたことと若干矛盾があったにせよ、誰も彼を責めない。しかし、そうしないのは、もしそうすれば自分で自分を責めてしまうと感じているからなのか。
 麻原死刑判決は、まだまだ一審であり、今後、二審、三審と続く。被害者からすれば、誰が実行者を影であやつったのか?という疑問に答えたに過ぎない。いや、それは誰でもいいのかもしれない。麻原本人が口を閉ざした以上、なにも明らかになっていないかもしれない。麻原が実行者を仕切ったとの判決事実。検察側の主張をそのまま認めた。ほかの可能性はなかったのか。弁護側の言うような「弟子たちの暴走」の可能性はないのか。その可能性を閉ざしたのは、沈黙を守った麻原本人にあるのだろう。もしかすると、今後、確定判決までは7年かかるという話もあるし、死刑判決がおり、執行されるまでには平均7年という状況を読む、あと14年は生きられると、計算的に思っているのか。うがった見方ではあるが。
 いずれにせよ、そのような麻原の態度に、河野さんは怒りを見せてはいない、少なくともメディアの前では。
 



松本被告死刑判決に「何も変わらない」と河野義行さん

    松本サリン事件の第一通報者、河野義行さん(54)は二十七日午後、長野県松本市内で記者会見し、松本智津夫被告の死刑判決について「予想された判決で違和感はない。裁判の大きなハードルは越えたが、被害者は悲しみを持ち続ける。何も変わりはしない」と、淡々とした口調で語った。
   会見の席上、松本被告弁護団が控訴したことが伝えられると、「何が不服で何が違っているのか、控訴審で(松本)被告自身が明らかにしてほしい」と訴えた。
   河野さんはこの日、松本市内の自宅で、公判の成り行きをニュースなどで見ていたが、昼過ぎに、妻の澄子さん(55)が入院している同県塩尻市内の病院を訪れ、今も意識が戻らない澄子さんに「死刑判決が下りると思う」と報告したという。河野さんは「伝えた意味が理解できたかはわからないが、本人は悔しくて仕方がないのではないか」と妻の思いを代弁した。
 (読売新聞)
  [2月27日21時17分更新]
  http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040227-00000512-yom-soci>